深層学習による宇宙観測データの分析:科学的に重要な太陽フレアX線観測データの自動検出

石川 真之介 特任准教授

2021/01/25

教員

引用:【国立天文台 太陽観測科学プロジェクト(@naoj_taiyo) ひので 2020年11月1日の太陽のX線全面 (太陽コロナ) 画像 https://twitter.com/naoj_taiyo/status/1323118725797535744】 ※ひので衛星による本画像はコロナの比較的低温の成分の画像であり、ちょうど太陽外縁部付近 (画像右下) でフレアが発生しているが、本研究で対象とした高エネルギープラズマは写っていない。高エネルギープラズマの検出のため、本研究では米国の観測衛星 RHESSI のデータを使用している。

人工知能科学研究科 石川特任准教授、内山教授らの国際研究チームは、人工衛星により取得された太陽フレアのX線観測データに対し、深層学習を用いて分析を行う手法を新たに開発しました。この成果は学術論文誌「Solar Physics」に掲載されます。

太陽フレアは太陽系最大の爆発現象であり、磁気エネルギーの開放により発生することが分かってきています。フレアが発生する際には、非常に高いエネルギーのプラズマが生成されることがわかっていますが、どのように生成されるかはいまだ解明されていません。その解明のために重要なのが、高エネルギープラズマから放出されたX線の観測です。その中でも、特に太陽の外縁付近で発生し、一部が隠れたフレアの観測が特に重要と考えられています。これは例えば、沖合を航行中の帆船を観察すると水平線で一部が隠れてマストのみが見えることがあるように、フレアの上部のみを観測している状態です。フレアの上部こそが磁気エネルギーが解放されて高エネルギープラズマが発生する場所であると考えられており、この部分のみがあらわに観測されているデータは高エネルギープラズマの謎を解く鍵となると考えられます。

図1: 従来手法と本研究の違い。

X線観測データから「一部が隠れている」フレアを選び出すのは簡単ではなく、複雑なアルゴリズムにより観測データからX線画像を作成し、「一部が隠れている」かどうかの判定は熟練の研究者による目視で行われていました。そこで研究チームは、この判定を自動的に行う深層学習モデルを作成しました (図1)。このモデルでは、X線観測データのスペクトル (波長ごとの強度分布) の時間変化を記録したデータである「スペクトログラム」を、畳み込みニューラルネットワークで処理することにより、高い精度を達成することができました。畳み込みニューラルネットワークは写真等の画像処理によく使われるモデルですが、画像としては人間には認識困難なスペクトログラムに対して畳み込みニューラルネットワークを適用した点が本研究の特色です (図2)。

図2: 「一部が隠れていない」フレアと、「一部が隠れている」フレアのスペクトログラムの例。人間が見ただけでは違いの判別は困難であるが、畳み込みニューラルネットワークにより高精度での分類を実現しました。

本研究で作成したモデルでは、従来のようなX線画像の作成は行わず、元となる観測データからフレアが一部隠れているかどうかを直接判定することができます。このモデルにより、複雑な画像作成アルゴリズムの理解や、熟練の研究者による目視判定がない場合でも、簡単かつ自動的に、科学的に重要である観測データを判別することが可能になりました。

掲載情報

S. Ishikawa, H. Matsumura, Y. Uchiyama and L. Glesener “Automatic Detection of Occulted Hard X-ray Flares Using Deep-Learning Methods,” Sol. Phys. 296, 39, 2021

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